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2007年 05月 14日
小児脳腫瘍について
脳腫瘍は小児に発生する固形癌の中では最も頻度が高くて,かつ死亡率の高い疾患です。脳腫瘍は他の臓器の腫瘍と比べて病理組織がいろいろ様々ですから,全ての脳腫瘍は稀少疾患(とてもまれな病気)といえます。さらに病理組織診断が同じであっても発生する部位と患者さんの年齢によって予後が変わるために,治療法の選択がとても複雑になります。 低年齢児の脳は放射線治療でとても障害を受けやすいので,化学療法が重要な治療手段となっています。髄芽腫や胚細胞腫瘍などの悪性腫瘍では脳神経外科医と小児科医の協力が欠かせません。現在日本では小児脳腫瘍の症例はたくさんの施設に分散していて,全ての子供たちに高い水準の治療ができていないこともあり,地域ごとの治療センターを確立することが望まれています。また,複雑な治療法の選択は常にcase-to-case decision(個々の患者で逐一異なること)であり,深くてレベルの高い知識をもち経験豊かな小児神経腫瘍医の育成が求められています。 まず最初に主治医を選ぶ場合に,悪性腫瘍を含めて大部分の小児脳腫瘍では,手術治療の選択と結果が予後(治るかどうか)を決める最も大きな要素だということを考えなければなりません。小児脳腫瘍の手術経験の件数が多い脳神経外科医を捜して下さい。もちろん小児科医と麻酔科医のいない病院での治療はできません。 住んでいる地域を問わずに,セカンドオピニオンからさらにサードオピニオンも聞いてもいいと思います。子供の長い一生がかかっていますから,この点は妥協しないようにして下さい。日本脳腫瘍ネットワークや小児脳腫瘍の会などの患者会がこれらの情報を集めて下さることを期待しています。 左側のサブメニューが解説の目次です。各項目をクリックすると,それぞれ詳しい説明にジャンプします。 成人の腫瘍やめずらしい腫瘍,髄膜種、下垂体腺腫、聴神経腫瘍,ラトケのう胞,転移性脳腫瘍,血管芽腫(フォン・ヒッペル・リンドウ病),リンパ腫,松果体嚢胞,類表皮のう胞,コロイド嚢胞などは、脳腫瘍についてに書いてあります。 説明を詳しく受ける権利 インフォームドコンセントという言葉が有名になりました。患者さん側からみれば,十分納得のいく説明を文書などで詳しく受けてから,医師の提案した治療方法に同意して治療をしていただくということです。小児脳腫瘍と診断されたら担当医師からいろいろな説明を受けるはずです。考えられる病名,症状の説明,治療の必要性,予想される病理組織、治療の方向性,治る可能性,手術の必要性とリスク,化学療法の説明,放射線治療の説明,考えられうる後遺症と社会復帰の可能性などです。 特に小児の化学療法については標準的治療や保険診療で認められたものがほとんどないので,患者の保護のための倫理的事項が守られなければなりません。効果の確定していない化学療法プロトコールは、一種の臨床試験に近いものになるので,小児の悪性腫瘍に用いる化学療法は各施設の倫理審査委員会または機関審査委員会(IRB)で承認されているのが普通です。同時に患者への説明文書が承認されているはずですから,それを見せていただきましょう。 私たちが行っているICE化学療法というのも北海道大学病院の倫理審査委員会で承認されています。 倫理委員会で通った文書をそのままお見せすることはできませんので、ICE化学療法の説明文(クリックすると見れます)として簡単に書きました。もちろんここに書いてある以上にかなり詳しい説明を実際には行います。 どこで治療を受けるのが良いか よく質問されますが,難しくてわかりません。でも考えてみましょう。 手術だけで治る腫瘍があるとしましょう。でもその手術は難しそう。それならば小児の脳腫瘍に経験の多い熟練した脳神経外科医を捜した方がいいですね。それで腕のいい外科医が見つかって,手術で全部とれてほとんど後遺症もなかったとしましょう。でも,ほんとは,その腫瘍が手術をする必要がないものだったらどうします??その手術はまったく無駄ですね。なぜ子供は開頭術を受けたのか,こんなことはあってはならないのですが現実にあります。なぜ起こるのでしょう。小児脳腫瘍の治療を受けるための解説に書いたように小児の脳腫瘍があまりにいろいろあるから,手術前の予想がよく外れるのです。治療に踏み切る前に,症状やMRIをみて,治療の方向性をしっかり判断できる医師が必要なのです。手術をする前に,手術が本当に必要かどうか(しないほうがいい場合もあります),どの程度の手術をしたらいいのかを極めて正確に判断できるお医者さんを探すというところが,全ての出発点ではないでしょうか。 化学療法とかほかの補助療法とかはまたそれから後の問題です。でも小児脳腫瘍は補助療法が必要なことも多いので、少なくとも小児科(特に小児神経と内分泌の専門の先生),麻酔科、放射線治療設備,病理部,眼科、耳鼻咽喉科,などなど,欲を言えば限りがないのですが、その程度はそろっている病院で最初から治療を受けるべきです。手術だけ脳神経外科で受けてから、他の病院に移って放射線治療や化学療法を受けたりすると治療が手遅れになってしまうこともあるのです。 医療費の問題 小児脳腫瘍は小児慢性疾患の手続きをすると医療費が補助されます。小児慢性特定疾患患者の医療費等の自己負担額を公費負担する制度です。対象疾患(11疾患群)のうちの悪性新生物群に入ります。この制度を受けるには申請が必要ですから申請書類を地域のお役所の窓口に提出してください。脳腫瘍と言われたらすぐにこの書類を主治医の先生に書いてもらわなければなりません。提出が遅れると最初にかかった医療費の自己負担分が返してもらえないことがあります。承認の場合には医療受診券が発行されます。公費の有効期間は原則1年以内ですから,継続する場合には毎年申請が必要となります。2004年に制度が変わって,病気がほとんど治ったと見なされる状態では保護を打ち切られます。 保険診療で使えるようになった制がん剤 2005年に厚生労働省「抗がん剤併用療法に関する検討委員会」(薬事・食品衛生審議会医薬品第二部会)で小児固形癌に使える制がん剤が認められました。小児悪性固形腫瘍に使えるので脳腫瘍はこの仲間に入ります。例えば平成17年2月14日小児固形癌にシスプラチン,エトポシド,メスナ,イホスファミドが承認されたと書いてあります。逐次変わると思いますので厚労省のホームページを見てください。その後,カルボプラチン,ビンクリスチン,プロカルバジンも脳腫瘍に対して承認されましたが,組織型などを確認してください。テモゾロマイドは悪性神経膠腫に対して認可されました。 ICE化学療法はシスプラチン,エトポシド,イホスファミド(メスナ)を使う抗がん剤併用療法です。 CCNU(カルムスチン)はとても有効な薬剤ですが,日本では認可されていないので使えません。使うとなると個人輸入ですが,とても面倒ですし混合診療になる可能性があります。イホスファミド(イフォマイド,イホマイド)と シクロフォスファミドはとても似た制癌作用を示す薬剤と考えてください。名前も似てます。 情報元 やはり厚生労働省は腐ってるね。
by Rock_Hill
| 2007-05-14 15:02
| 健康/病気
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